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土田×金子 過去拍手御礼 1/16




気に入らない。真正面にそう言っておきながら、言った金子は逃れるかのようにぷいと顔を背けた。 たった今土田に放った声には熱っぽさもなければ甘やかさもない。あるわけがない。 気に入らないと言ったのだから当然だ。けれど、言ってからがなんとも気まずいのだった。まるで告白を仕損じたような居た堪れなさだ。
「嫌い、だ」
再び言い切った金子に「そうか」と存外に穏やかな声で土田は言った。
「ああ、しかし」
言いながら金子は腕を組み、身体を傾いで壁に寄りかかると窓の外に視線を彷徨わせた。
「間違えるな。お前ではなく、お前のそういうところが、だ」
どうしてこんな言い訳じみたことを言っているのか。 やけに唇が渇いて指先でなぞれば、自嘲で歪んでいる。土田はいつものように、さほど動じる様子もなくこちらを直視しているのだろう。金子は振り返らない。おのれに注がれている土田の、真直ぐな視線を想像すれば、どうしても振り返れなかった。こうしていれば互いの距離は狭まることはなく、狭まらないことに金子は少しだけ安堵しているのだ。それでも金子の背中は、土田が身じろげばその気配を追い、土田の身体から発せられる体温を享受したがった。





葉をつけたままの枝が陽射しを遮り、心許ないきざはしを網目のように地に降ろしている、晴れた冬の日のことだった。金子は土田の背中を借りてまどろんでいた。制服の布地を越して伝わってくる体温がやけに気になり、そして訳もなく可笑しかった。
「お前は、顔に似合わず体温が高いな」
「体温に似合う似合わないも無いと思うが」
「子供の平熱は総じて高いというだろう」
堪えきれずくつくつと笑声を漏らせば、土田はかすかに顔を曇らせた。 返せと言われないのをいいことに、金子の背中は土田の体温を搾取し続ける。 それを言うなら、と口を開いて土田は身じろいだ。背骨の当たる位置が変わる。
「体温が高いのは俺ではなく、お前の方だな」
「どうして」
「寝入りしなの子供の身体は温かい」
淡く笑んだ土田に金子は「ほお」と不敵な笑みを返した。子供呼ばわりされたことは少し癪に障ったが、土田がそれを知る理由がすぐに察しがついたので、どうでもよくなった。くたりと寝入ってしまった幼い弟を背負って歩く。そんな土田の姿を思い浮かべて、金子はいっそう笑った。

懐旧というにはまだ近い時分のものなのに、思い出すのが躊躇われるような。思い出せば泣きそうな。優しすぎる記憶だった。





金子は振り払うように目蓋を閉じた。土田がゆっくりと息を吸う、気配がした。 吐かれた呼気は漣のように、夕刻時の教室の気だるい空気をゆうらりと震わせた。
「それは俺の一部だが、俺のすべてでもある」
「 ……… だから?」
土田の言葉に素っ気なく返して、金子はようよう振り向いた。 そして長い嘆息を吐いた。返す言葉を探すように眼球をちらと横にずらした土田が、それを見つけるより先に金子の唇が動いた。
「それを否定するのは、お前のすべてを否定するに等しい       とでも言いたいか」
ひどく冷たいもの言いになった。放ったおのれに跳ね返ってきて、背筋がひやりとした。 言われた本人は最初こそ思案に余ったように眉を顰めてみせたが、やがて得心したように
「要するに、お前は俺を嫌いなんだろう」
やけにすっきりとした面持ちで言った。 じわじわと身を侵す曖昧な焦燥。なんという理不尽。 嫌いと言ったのはこちらなのに。金子は思わず目蓋を伏せた。





好いていようと、嫌っていようと。
俺は思考の何割かを、こいつのために割いていて
俺の中身の何割かを、こいつが占領しているということに
なんら変わりはないではないか。