導火線

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水川×金子




「 いっ   
いたい。いやだ。どちらにしても、ひと息で簡単に言い終える極短い一音節である。 金子の矜持、というよりむしろ頑なな意地が、 その懇願ととりようならばとれるものが蹂躙している相手に 伝わることを赦さないのだろう。途中で飲み込まれ成せなかった声を呼気に変えて、金子は小さく震える唇からそれを吐いた。 堪えたところで嗜虐心を煽るばかりだというのに、聡いはずのこの青年はいまだそれを覚えようとはしない。 水川は緩く口角を上げる。言葉が途切れてふいに落とされる、この刹那の間はいい。 その辺に転がっているありふれた言葉が色めいて聞こえる。 水川は咽頭の深いところで笑声を鳴らすと、やおら身を乗り出した。 嵩を増した欲の塊が金子の体内の、より深いところへ移動する。 入り口はいまだ侵入を拒むように硬いが、奥の粘膜は待ちかねたように絡みつく。爛熟したように熱く柔らかい。 水川は身体を小さく震わせた。
「んんっ …… あ … ぁあっ」
金子の身体が逃れようと身じろぐ。逃すまいと水川は撓んでいく背中に腕を回す。強く抱き締める。 互いの吐息が混じるほどの至近距離で、情欲に赤く縁取られた双眸を覗き込んだ。
「……… いたい?やめたい?嘘を言うんじゃないよ。こっちはずいぶんと、善さそうだけど、ねえ」
人の悪い笑みを浮かべながら、水川は腰をゆるゆると蠢かす。 強引に最奥まで圧し挿れて、詰めていた息を大仰に吐き出す。
「見えるかい。ほら ……… こんなに」
「いう、なっ      っん、ぅ」
骨が軋むほど身体を折り眼前に結合部分を晒してやると、金子は眉根の皺をいっそう深くしながら浅い息を吐く。 己の醜態を視界から逃そうと顔を背けるが無駄なことだ。前髪を掴み押さえ込む。
「欲しかったんだろう ……… 正直にお言いよ」
僕の、これが。強調し口唇を楽しげに歪める。 違う違うと金子はうわ言のように繰り返す。羞恥か口惜しさか、それとも単に生理的なものか。 力なくかぶりを振れば、目尻に溜めた涙が零れて鬢を濡らした。 水川は眼下の白い痩躯が快楽ただ一色に染まっていくさまを見下ろしながら、内心辟易していた。 先からの責めは明らかに理不尽なものだった。金子に非はない。運が悪かったとしか言いようがない。 旧友との邂逅に己の未練がましさを思い知り、何処へも向けようのない遣る瀬なさで 身悶えていたところに出くわした。ただそれだけなのだ。





無関心は拒絶より残酷だった。忘れ去られるくらいならいっそ憎まれた方が幸せだと思った。 求めても求めても餓えも渇きも癒されることはなかった。やがて疲れて途方に暮れた。
それでも淡い期待を抱くのが人間の性で欲で業だ。
彼の内に己への特別な情など微塵もないことは知りすぎるほど知っていたはずなのに失望し、その挙句にこの様だ。 みっともないったらありゃしない。





水川の身体と硬い床に挟まれて、金子は時折その白い首筋を引き攣らせる。呼吸が忙しい。 過ぎる快楽は苦痛と紙一重なのだろう。知りながら、高みに上げて達しそうな寸前に動きを止める。 幾度かそれを繰り返した後、肉襞を舐めるように引き抜けば、 金子は嗚咽にも似た声を漏らした。 恨みがましい眼差しをくれる。なんとも素直で可愛らしい反応だ。 浅ましい欲を隠しもしない。それでいい。 水川は歪な笑みを浮かべながら、唇を金子の薄く汗ばんだ額に寄せた。 荒げた呼気を宥めようと金子が深く長い嘆息を吐いたのを見計らって乱暴に貫いた。 若くしなやかな身体が切なげに戦慄く。その頭を傾け、首の薄い肉に歯を立てた。 小さな悲鳴が聞こえたが、それはもはや掠れて吐息と寸分も違わなかった。 皮下に血が滲む。所有の証、などと過ぎった脳裡を嘲う。 そんなものが欲しいのではない。 得体の知れないなにものかが胸の襞を撫でたとして、その蠕動が灯りを点す確証はないのだ。