お代は見てのおかえり (1)

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蒼井×小早川 10/9

啄ばむようなキスを繰り返し、互いの興奮を高めていく。 合間に薄目で見てみると、いつもは無表情に近い蒼井の顔が どこか余裕なさげで、それが歳相応に可愛らしく思えた。 腕を強引に引き寄せ、濃厚なキスをおみまいする。 唇を甘く食む、舌を絡ませる。すると蒼井は、少し遠慮がちな手つきで Tシャツの裾から手を入れて胸肌を弄り始めた。 指先が触れた一点を揉み解すように捏ねられて 思わず肩がぴくんっと波打つ。唇が離れた。 蒼井は不安そうに眉根を顰めて俺を見る。 事を始めようとした時に蒼井がアレを使いたいと言ったのを、 俺が渋って返事をしなかったのが原因なんだろう。 今回のそれは前のものほど仰々しくはないし。 正直、俺も興味がないわけでもない。 なにより俺は蒼井のこんな、しゅんと視線を落とした後に遣す、 少し思いつめたような切なげな目に弱い。 普段はクールな顔が、かすかであっても曇っていると、 とたんに落ち着かない気分になる。 申し訳ないような、どうにかしてやりたいような。 まったく……こいつはズルイ。なんの腹積もりも裏もなく、 さらりとやってしまうあたり本当に性質が悪い。 ふいにTシャツをたくしあげられて、空気に晒された肌に 意識が集中する。指が辿ったところを今度は小さな音をたてて唇が。 濡れた舌が這う。ベルトを外す音がする。 いまさらとも思うが、 早々に感じてしまっているそこを見られるのがなんだか恥ずかしくて、 ファスナーを下ろそうとする手を軽く拒んだ。蒼井がかすかに小首を傾げる。
「あの……な?」
「………うん」
「さっきの……さ」
「………さっきの?」
「だから。あれだよ……その……」
「あれって……ローター?」
ああ、と俺は胸中で項垂れる。こいつは、いつもいつもどうしてこう。 清廉とか潔白とか。そんな言葉が浮かんできそうな。 性的なものにはまったく興味ありません、みたいな澄ました顔をして、 そんな言葉をさらっと言えちまうんだろう。 俺だってケツの青いガキじゃあるまいし、こんな状況でなければ口にするくらいなんてことない。 多分、妙に気恥ずかしいのは、単なる言葉の卑猥さではなくて。 それを使ってよがりまくる自分が、蒼井が口にした時点で簡単に想像できてしまうからなんだろう。 そして一番閉口してしまうのは、蒼井はきっと全部お見通しだということだ。もちろん自覚などしていないだろうが。 蒼井は俺の嫌がることはしない。俺が本気で拒絶すれば無理を通すことはないのだ。
「……いいぞ」
「………え…?」
恥ずかしいのを堪えて言ったのに、聞き返してきやがった。 だから、お前はズルいって言うんだよ。判ってるくせに。俺が許しちまうってことを。ちゃんと判っているくせに。
「………いいの?」
「……お、おうよ……あ。でも前みたいに、俺だけってのはかんべんな」
「……わかってる」
俯きがちな目を覗き込むように言ってやると、蒼井は薄く笑んだ。 こいつも案外判りやすい。それが俺限定なのが、じつは少し嬉しかったりする。 俺も笑えばそれが合図のように、唇は引き寄せられるようにゆっくりと重なった。




「……っ……くっ」
さっきまで蒼井の指や舌が通ったところをローターが辿る。小さな振動音がどうにも居た堪れない。 と、冷静に考えていられるのも今のうちだけだろうが。 脇腹や背中を撫でられていたときはくすぐったいと笑えたが、唇を、それも触れるか触れないかの微妙なタッチで 触れられてから、淡い危機感を覚えた。 乳首の周りを這わされたらもう、そんな余裕は吹き飛んだ。咄嗟に俺は身を竦めて、蒼井の肩を掴んだ。
「……おい……ちょ      っは……ぅ、ん、ん」
先端に当てられて声が洩れる。ぎゅうっと目を瞑る。眉間から目蓋が焼けるようにちりちりと熱かった。 俺は中心にせりあがってくる熱に、堪らず腰を蒼井の腿に押し付けた。
「……気持ち、いいんだ」
「いい…っつうか…ヤバ……っい」
答えた声は上擦っていた。こんなものは、ほんの愛撫にすぎない。 この後どんな波が襲ってくるのかと想像すればするほど落ち着いてもいられなくなってくる。 が、考えたところでどうにもならない。ならなくていい。 蒼井がいいと思ってすることはきっと、俺にとってもいいことに違いないのだから。