森々と

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克哉×片桐 雑記ログ




ひっそりと息を潜めた寝室は取り残されて淋しいような、 それでもどこか居心地のいいものだった。 この世界には自分達以外、他の誰もいやしないと思わせるからなのだろうか。 片桐はじいと天井に潜む一段と濃い陰を見つめていたかと思えば、すぐ傍らに横たわる 佐伯を起こさないよう息を殺して寝返りを繰り返した。羊の数を数えて もみたが、まるで効果がないことに気づいてやめた。眠れない。佐伯の 熱を受け入れたそこから全身がどろどろに融けてしまうと錯覚するほど、 互いの体温を貪るように抱き合って。意識は朦朧と、肉体は疲弊が著しかった はずなのに一向に眠気は訪れない。
ああ、きっと。片桐は淡い笑みを浮かべる。 無理に眠ろうとするからだ。ならば眠る努力を棄てればいい。片桐は横臥させている 半身をかすかに起こし肩肘をついて、形良い唇を引き結んだまま寝息も密やかに眠る 佐伯の顔を見遣った。暗いながらもおぼろげな月光の一差しを受けて、頬から顎にかけての 輪郭が今夜の弓張月のように白く浮かんでいた。その顔は端整でありながら、気だるげに乱れた髪はどこか稚かった。 温かく、そして少し仄暗い。ふいに湧いたそれは、かつて腕の中にいた小さきものに抱いた感情によく似ていた。 片桐はふと視線を落とし、ついで細く息を吐いた。内の奥深い部分で激情を感じていても 、巧みな指先で痺れるような快楽を与えられていても。甘い言葉を囁かれれば囁かれるほど 、現実に戻れば不安ばかりが募る。畢竟、片桐にとって佐伯という男はいくら肉体を繋いでいても、 果てしなく遠いところにいるような人間に思えてならないのだった。その手が優しいのがいけない。 ときに恭しく、まるで大事な宝物ででもあるかのように扱って。そのうえ眩しそうに眼を細めて、 幸福そうに微笑むなんて。嬉しくないわけではない。嬉しくないわけがないのだ。けれど勘違いをしてしまう。 自分に彼しかいないように、彼にも自分しかいないのだ、と。片桐は眼下の首筋に触れた。起こしてしまうかもしれないと いう懸念がなかったわけではないが、再び熱を帯びて悶え始めた劣情が、片桐の手を動かした。 浮き出た血管にそろりと指を這わせた。その皮下では生温い血が脈打ち流れている。強暴で残酷な 、とても得がたい、そのすべてが      胸が小さく震える。飽和状態の肺胞が圧迫感にきゅうと鳴く。苦しい。


それを単なるせつなさと呼ぶには、自分は少し歳を取りすぎた。